59人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
トマが毎朝、俺に
「死にたい。」
と言う。
俺はガラスに顔をくっ付けるようにして彼に励ましの言葉を掛ける。
自殺を防ぐ為、トマはベッドに拘束されて安定剤入りの点滴を受けている。
俺から数メートルしか離れていない場所で寝ているのに、これ以上近付く事は出来ない。
何度も壁を殴り付けたい衝動に駆られたが、それが無意味だと知っている。
だから俺は、心の中で叫ぶ。
くそっ!くそっ!
世界は狂ってる!
ああ、トマ。
おまえの気持ちが分かるよ。
加賀が初めて俺の部屋に来て、話しを始めた。
「地下施設の特別区域に、あの子供達の養育所がある。
どこから連れて来られたのかは知らない。
ただ、俺達同様、身寄りも無ければ気に掛ける人間もいないんだろう。
赤ん坊の頃からここに居るらしいから、俺やトマよりも先輩だ。」
「え?この施設は、例のウィルス事故があったから作られたんじゃ…?」
「それじゃ、どう考えても間に合わないだろ?
何の目的かは知らないが、この地下研究所はずっと前からあったんだよ。
そして、子供達も密かに育てられていた。
彼らも実験体だって事だ。」
目眩がした。
俺も遺伝子の研究に携わって来たが、そんな非人道的な事が行われていたなんて。
最初のコメントを投稿しよう!