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俺はトマに尋ねる。
「トマ、自由になりたいか?」
トマが笑って言う。
「僕を殺してくれるの?」
俺が眉間に皺を寄せると、トマがまた笑って言った。
「ごめん、ちづる。
きみにそんな事が出来ないって知ってる。
ちょっとふざけただけなんだ。」
「真面目な話しだよ。」
俺は、声音を落として囁く。
「外に出たいだろ?」
トマが目を見開いて俺を見るから、今度はこっちがにっこりしてやった。
俺も、冗談を言った訳では無かった。
最近は、脱出計画を実行出来ないかと、そればかり考えている。
トマを連れて逃亡したかった。
でも問題は、彼が感染者だと言う事だ。
ウィルスをバラ撒く様な真似だけは絶対に出来ない。
その問題を解決するには、トマの体内に宿る奴らの息の根を止めるのが何よりの方法だった。
俺は与えられた仕事を黙々とこなしつつ、密かに自分の研究を続けた。
ウィルスを死滅させる。
俺はこれまでに無いほど熱い情熱をたぎらせ、研究に没頭した。
夜、ベッドで眠りに就く前に、俺はいつも夢想する。
トマと一緒に地上に出て、空を眺めるのだ。
満点の星空。
俺達は宇宙規模からすれば、吹けば飛ぶ塵。
だから大丈夫。
見つからずにひっそり暮らせる。
きっと、トマも笑って頷いてくれるだろう。
トマは俺にとって、掛け替えの無い存在になっていた。
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