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トマの容態が悪化した。
いつもの発熱のあと、右腕が腫れ、ケロイドが現れたのだ。
彼の顔に残っているケロイドは最初の発熱時に出来た物で、それ以降、皮膚組織に異常は起きていなかった。
今回もこのまま治まってくれればと期待したが、微熱が続いて体力が落ちて行く。
俺は足繁く彼の部屋に通い、ガラス越しに声を掛ける。
「トマ、ちゃんと食事を摂らなきゃダメだ。」
「…食欲が無いんだ。」
「でも、体力を回復させないと…。」
「頑張っても、この病気は治らないよ。」
トマは諦めていた。
子供達がベッドの周りに集まり、心配そうに彼の顔を覗き込む。
俺は見ているのが辛くなり、部屋の前から立ち去った。
時間が無い。
俺は焦りを感じる。
ウィルスが牙を剥かないなど、最初からそんな保証は無かったのだ。
奴らはいつでもトマを殺せた。
それは1ヶ月後か、或いは1週間後、もしかしたら、明日にでも…。
俺は研究室に戻り、こっそり紛れ込ませていた試験管を冷蔵庫から数本抜き取って白衣のポケットにしまう。
管の中に入っているのは、俺の細胞の一部だ。
作り変えた遺伝子と薬品を混ぜた、危険な代物。
特効薬にするにはまだ改良が必要だが、ぐずぐずしてはいられなかった。
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