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トマの熱は下がらない。 規則違反だが、俺は毎晩、彼の様子を見に行く。 子供達はすやすや眠っている。 トマはベッドの上で点滴の管に繋がれ、目を瞑っていた。 突然、トマがベッドから起き上がった。 苦しそうな声を上げ、顔を両手で覆う。 廊下でうとうとしていた俺だが、異変に気付いて声を上げた。 「トマ!どうした?」 「ああっ!…目が…。」 トマがベッドから下りて、重い体を引き摺る様に歩く。 その度に点滴の針が次々と抜け、俺はガラス越しに彼を追い駆けて叫んだ。 「トマ!動かないでくれ!」 トマが、がくりと膝を付いた。 そして 「目が…、目が…!」 と驚愕の声を上げた。 彼の顔を覆っていた手が、ゆっくり解かれる。 その瞬間、右の眼球がぽとりと落ちた。 呆然と床に座り込むトマ。 彼の右目があった場所は、ぽっかりと穴が開いていた。 俺に迷いは無かった。 通行証をセンサーに押し付けてロックを外し、ガラス窓の横に取り付けられた最後の扉を開けて中に飛び込む。 そして、彼を抱き締めた。 トマは抵抗する素振りを見せたが、有無を言わさず掻き抱く。 トマは自分の体の異変などお構いなしに、 「きみは馬鹿だ!」 と俺を怒鳴り付けた。 俺は彼をぎゅっと抱き締め、 「そうだね、トマ。」 と答える。 そのまま、俺達は抱き合って泣いた。
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