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俺がウィルスに感染してから1週間以上経ったが、発熱も初日だけで、他の身体的異常は全く発現しなかった。
採取されたウィルスはトマや子供達の体内で見つかった物と同じ形をしているのに、宿主に与える影響はバラバラで、研究者達の頭を悩ませ続けている。
俺は、パソコンの画面に浮かび上がる殺人ウィルスを睨み付ける。
トマを傷付け、子供達の体を変異させた憎い敵。
今日も実験は失敗に終わった。
俺の作った秘薬は、ウィルスを抹殺してくれない。
他の研究者達は、このウィルスを利用する事ばかり考えている。
根こそぎ死滅させようと思っているのは、多分、俺だけだ。
トマがまた熱を出し、昨日からベッドで点滴を受けている。
左腕も腫れている。
俺も急に具合が悪くなり、トイレに駆け込んで嘔吐した。
俺の体内でも、いよいよウィルスが暴れ始めたらしい。
するとトマが、点滴スタンドを引き摺ってトイレまで来た。
そして優しく抱き締めてくれる。
彼は俺の背中に顔を付け、
「最期まで一緒にいよう。」
と言った。
俺は嬉しくて、うん、と頷いた。
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