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ついに、トマが昏睡状態になった。
医師達は匙を投げだし、延命治療も放棄した。
皆、恐がっているのが分かる。
トマの全身は赤く変色し、火傷を負ったように腫れていた。
でも俺は、躊躇わずにトマを撫でた。
そうすると、薄らと目を開ける。
そして、残っている左の黒い瞳で俺をじっと見る。
すぐに瞼を閉じてしまうが、俺には彼が笑ってくれているのが分かった。
その日の夜、トマが死んだ。
呼吸が止まり、心臓が止まり、瞳孔も収縮をやめてしまった。
ガラスの向こうで様子を窺っていた医師達が、ぞろぞろと廊下を去って行く。
ただ1人残った加賀が、ベッドの横に立ち尽くす俺にスピーカー越しに声を掛けた。
「小山、すぐに研究員が戻って来る。
トマに別れを…。」
「嫌だ。」
俺は拳を握り締める。
「彼は死んじゃいない。」
俺は冷蔵庫に飛び付き、中に隠していた注射器と試験管を取り出した。
加賀が大声で何か言っていたが、構わずトマに駆け寄り、彼の腕に薬を注入する。
そして叫んだ。
「目を覚ませ、トマ!
みんなに生きてるって証明してやれ!」
トマは何も言わない。
俺は叫び続ける。
「このままじゃ、おまえは本当にただの検体になるんだぞ!
早く起きろ!
なあ、起きろって言ってるだろ!」
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