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しかし、俺は再び戻ると決めた。
それは当初の計画には無かった事だが。
発信する情報は充分集めたし、戻って捕まれば全て水の泡だ。
それでも、俺は確かめられずにいられない。
あの後、小山はどうなったのか?
トマの亡骸は組織を採取された後、冷凍保存された。
これから『TOMA』として、その体は研究者達に思う存分利用されるのだろう。
生きていた頃から彼は従順だったから、ただの肉の塊になっても、大きな差は無いだろうが。
トマが亡くなった翌日、俺は小山の部屋を訪ねた。
以前のように、ノックをすれば簡単に入れる部屋では無い。
彼は今や感染者で、『同胞』を亡くした可哀想な男であり、トマに継ぐ貴重な生きた『検体』でもある。
担当区域の違う俺が面会出来るのも、これが最後だろう。
俺はガラス越しに小山に話し掛けた。
「小山、おまえ大丈夫か?」
精神的な問題を訊いたつもりだった。
しかし小山は、ゆっくり首を振って答える。
「嘔吐と微熱が続いている。
俺も、長いこと無いな。」
悲壮な告白であるはずが、本人は微笑を浮かべていた。
ああ、こいつはトマの所に行きたいんだな。
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