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俺が戻った理由。
それは、自責の念に駆られたからか?
ジャーナリストであるならば、自分がこの手で拾い集めた情報を多くの人間に知って貰うのが仕事であり、使命だ。
俺はそれを忠実に果たしている。
…でも、後悔しているのだ。
小山を利用し、置いて来た。
彼が感染者だったから。
いいや、違う。
自分が逃げたかったからだ。
小山は俺と違って逃げなかった。
俺はそれを知っている。
だから、助けなきゃならない。
罪滅ぼしだ。
偽善だ。
でも、俺だって救われたい。
俺のジャーナリスト魂は北野が引き継いでくれる。
小山を助け出せる可能性は低いが、俺は負け試合に挑戦する。
自分を奮い立たせないと怖くて仕方ない。
俺は自分がこんなに臆病だと言う事を、今更ながら知った。
俺は震える体を両腕で押さえ、エレベーターが上がって来るのを待つ。
毎日1度、人目の着かない深夜に、発注した薬品や実験用具の引き取りが地上で行なわれる。
手渡しはしない。
届け人はエレベーター横の業務用冷蔵庫に品物を入れ、受取人はそれを確認して地下に降ろす。
突然、エレベーターの稼働ランプが点灯し、俺は息を殺して身を縮めた。
受取人が上がって来たのだ。
俺が地下に侵入するには、この箱に乗り込むしかない。
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