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ただ違うのは、自由が無い事だ。 何不自由無く暮らせても、俺はここから一歩も外に出られない。 でも俺は、それに気付いていなかった。 彼に出会うまでは。 彼とは、ガラス越しの対面だった。 壁一面に大きく切り取られたガラス窓から、部屋の中が見える。 ベッドにソファー、机、本棚。 俺達の個室と変わらない様相だが、大きな違いがあった。 この部屋は、危険区域の中にある。 ここまで辿り着く前に、コンピューター制御された防護扉をいくつも抜けなければならず、最終目的地であるこの部屋も、立ち入り禁止の重大汚染区に指定されていた。 中に居る人物との謁見は、原則として強化ガラス越しに行われる。 会話は、スピーカーを通してやり取り出来た。 俺の他に2人の研究員を引き連れてやって来た所長が、壁に向かって声を掛ける。 「トマ、新しい研究員達を紹介するよ。」 壁越しの自己紹介が始まり、俺の番になった。 俺は「小山千尋(こやま ちづる)です。」 と、ぼそぼそ言った。 昔から、俺は名前のせいで女に間違われ、恥ずかしい思いをして来た。 だからどうしても自己紹介に抵抗がある。 それで歯切れが悪くなるのだが、トマが小首を傾げてガラスに近付いて来た。
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