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「これは製造とコストのことを詳しくまとめたものだ」
声が降ってきて、デスクの上に書類が置かれた。
顔を上げると早瀬さんがわたしの脇に立っていて、視線をこちらに向けている。
空気がきりっとするようだった。
「ありがとうございます」
手元の書類を手に取りながらそう言ったわたしは、内容を確認した。
さすが早瀬さんだ。とても細かく書き記されている――
「ぼうっとしてミスをするなよ」
――は? 腰を折り曲げてわたしの耳元で挑発するように囁いた早瀬さん。堪らず顔を向けて眉間に皺を作り見ると、くすっと笑われた。
不愉快だ。ミスなんて、あれからわたしはしていない。これは完全にわたしをからかう言葉だ。
イラッとしたわたしは猛スピードでタイピングを始めた。
こんな人を気になっている自分に苛立つ。
わたしは夢中で資料を作成していた。
しかし、早瀬さんのほうが色々と早い。悔しいが彼はわたしよりも仕事が早いのだ。
「はあー……!」
思いっきり強くエンターキーを押したわたしは、直後に盛大な溜め息を吐いた。
「お疲れさまです」
すると北原がやってきて、わたしの顔を覗くように見てきた。
もうそんな時間かと思った。どうやら相当集中していたらしい。勤務時間が終わっている。
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