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◇
それから二日が経過した、日曜日の夜。
上杉邸のリビングソファに座り、美跳は気もそぞろに1人手にしたスマホを弄んでいた。
今日の練習を最後にユースチームの活動を離れ、哲太が百瀬の家に、遂に戻って来る。
改めて久しぶりの帰宅を百瀬の家で、千早や哲二と一緒に出迎えるつもりでいた美跳だったのだが、数時間前に哲太から届いたラインでのリクエストは、
“お前ん家で待ってて”
だった。
手短に書かれたその言葉の裏にある甘やかな哲太の思惑に、美跳が尺当たらない筈もなく。
ソファの隅にちょこんと座り、スマホ上の哲太とのやりとりをスクロールして眺めては、つい口元を緩めてしまう美跳。
数日前までは、こんな日が来ようとは夢にも思わなかった美跳だが。
ポロン、という短い着信音の後、スマホの上部に通知されるメッセージに、あ、と美跳は笑顔を引っ込めた。
送信者名は“佐鳥結衣”。
「…」
美跳は人差し指でタップしてその内容を確認する。
“お疲れ様です。哲くんはもう、そちらに到着したかしら?
話していたエキシビジョンマッチのチケットを送ります。そうだ、よかったら試合の後3人でご飯でも行かない?”
もう、随分と以前からの親しい友人かのようなその文面に、美跳は戸惑う。
落ち着いたら、ご飯…
ユイさんと、哲太と…あたしで?
あれ?
でもユイさんユースチームのチア兼マネージャーなんだから、エキシビジョンマッチが終わったら、次の遠征先へ発つんじゃ…?
そう疑問が頭を過ったと同時、気のせいではなく何とも言えない不穏な感覚が美跳の心を支配し始める。
聞きたい事があるのかな。
哲太の事で。
ヘアピンを受け取った時、…りおんが来て慌てて中断しちゃったけど、あの時も、…
ユイさん、あたしに何かを言おうとしてたし。
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