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数年後、母までもが亡くなってしまった。
何度も手術を乗り越えて、でもとうとう力尽きて父の元に旅立ってしまった。
私は母に、成人式の振り袖姿は見せてあげることができたけど、孫の顔は見せてあげられなかった。
まだ会話ができるくらいには元気だったころ、私は母とこんな話をしたことがあった。
「今度生まれ変わったら、私がお母さんを産んであげる」
「産んでくれる? 生まれ変わってもまたお母さんの子に生まれたいっていうのはよく聞くけど、お母さんのお母さんになるって?」
「そう。親に愛されて大切にされる子供がどんなに幸せか、お母さんにも味わわせてあげる」
母は生い立ちが少し複雑で、幼少時代は不遇だった。
それでもひねくれたところのない、少女のように純真な人だった。
「生まれ変わっても、また親子になろうね。今度は立場が反対だけど」
私の言葉に母は大いに喜んでくれた。
亡くなった次の年の春、私は母の写真に語りかけた。
「お母さん。もうすぐ私の誕生日だよ。今年はね、犬がいいな。仔犬。ミニチュア・シュナウザーなんてかわいくない? ビリーは男の子でやんちゃ坊主だったから、今度は女の子もいいかもね」
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