4人が本棚に入れています
本棚に追加
聞けば少し前に何頭か生まれた兄弟の内、一匹だけが売れ残っているという。
「咲月さんなら特別価格。連れて帰ってやってよ」
提示された金額は、市場相場の十分の一程度だった。
これまで何度もこの店には足を運んでいるけれど、こんなこと言われたのは初めてだった。
戯れに、どの子を連れて帰る? なんておどけて言われたことはあったけど、具体的な金額まで出して言われたことはなかった。
それがなんと、まさかのミニチュア・シュナウザーで初めて言われるとは。
これは偶然だろうか。
それとも必然だろうか。
そして更に私は、あることに気づいてしまった。
すっかり忘れていたけれど、その日は私の誕生日だったのだ。
『誕生日には、ミニチュア・シュナウザーの仔犬が欲しい』
母にねだったそのままのシチュエーションが、目の前にあった。
これはもしや母が、私の願いを聞き届けてくれたということだろうか。
「え、でも、そんな突然、心の準備もいるし」
「大丈夫、大丈夫、咲月さんなら」
まさか犬を飼うことになるなんて夢にも思っていなかったので、とりあえずその日は保留にしてもらって私は帰路についた。
そして家に帰ってから、いろいろ考えた。
どう考えたって、こんな偶然まずあり得ない。
他の犬種ならまだしも、私が言った通りのミニチュア・シュナウザーだなんて。
しかもメス。
私のリクエスト通り、女の子。
これはもう、無視して通り過ぎるわけにはいかない。
その日のうちに心を決め、ミニチュア・シュナウザーの女の子は私の新しい家族となった。
最初のコメントを投稿しよう!