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中学1年の終わりに、父が亡くなった。
冗談も言わないような真面目な人で、家族の為に働いて、働いて、働いて、働き過ぎて、酒も飲まないのに肝臓を悪くして逝ってしまった。
母は悲しみに暮れて泣き暮らし、私と兄は母を慰めるためにも無理にでも笑って明るく振る舞った。
父親と連れ立って歩く友達を見るのが、辛かった。
その翌年、私が中学2年になったある日。
昼休憩のことだった。
私は廊下側の窓際の席で、読むでもなく本を眺めていた。
廊下では男子がキャッチボールをしていて、危ないなとぼんやり思っていた。
しばらくすると、校内放送が流れた。
『2年2組の咲月さん。2年2組の咲月さん。職員室まで来てください』
何だろう?
日直でもないのに、しかも職員室のどの先生のところへ行けばいいんだろうか。
とりあえず私は腰を上げ、廊下に出た。
ところが二階の教室から職員室へ向かう階段を降りかけたところで、まだ続いていた校内放送が再び言った。
『……もう一度繰り返します。1年4組の井上さん。1年4組の井上さん。職員室まで来てください』
「は?」
思わず間の抜けた声を出してしまったほど、私は驚いた。
今の、誰だ?
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