父の場合

3/4
前へ
/14ページ
次へ
学年もクラスも違うし、苗字だって一字たりとも私と被ってない。 似た名前だったら聞き間違えることもあるかも知れないけれど、どこをどう聞いたら『1年4組の井上』が、『2年2組の咲月』に聞こえるんだ? どうしてそんな妙な聞き間違いをしてしまったのだろう。 首を傾げながら、私は今来た廊下を引き返した。 ところが、教室に戻ってきて中に足を一歩踏み入れた、その瞬間だった。 パリーン! 大きな音が響いた。 廊下で遊んでいた男子の手元がそれて、ボールが窓ガラスをガラスを割ったのだ。 しかも場所は、私の席の真横の窓。 さっきまで私が座っていた椅子にも、机にも、ガラスの鋭い破片が広い範囲で散乱していた。 もしあのまま席に座っていたらと思うと、ぞっとする。 今頃は顔や手にガラスが刺さって血だらけになっていたはずだ。 引き攣った男子が窓から顔を出し、席に誰も座っていなかったことを確認してほっと大きな息をつくのが見えた。 友達何人か、が泣きそうな顔ですっ飛んできた。 「大丈夫?!」 「う、うん、大丈夫!」 大丈夫も何も、そこに座っていなかったのだから無事に決まってるけど、あまりの衝撃に他に返す言葉が見つからない。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加