父の場合

4/4
前へ
/14ページ
次へ
「どこ行ってたの?」 「校内放送で呼ばれたと思って。でも途中で人違いに気づいて、戻ってきたとこ」 「校内放送?」 「うん、さっきの。最初、私と似たような名前言ってなかった?」 すると友人たちは互いの顔を見合わせ、それから私に向かって首を振った。 「全然? もしかして、あの放送で教室出て行った?」 「急に立ち上がって出て行くから、どこへ行くんだろうって思ってたよ」 口々にそういう彼女たちは、不思議そうに私を見た。 つまりあれを私が呼ばれているのだと勘違いしたのは、私ひとりだけだったのだ。 不思議だった。 普通なら間違えるはずがない。 でも、間違ったおかげで私は大怪我をせずに済んだ。 もしかしたら父が守ってくれたのではないか。 ふと、そんな気がした。 誰かが呼んだらしくて担任の先生がやってきて、ガラスを割った男子に破片を片付けるよう言いつけていた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加