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病室のベッドの上で、痛々しい姿をしている姉は、両親を見て恐怖に慄(おのの)いている。
当然だ。
ここにいる人間を、誰も知らないのだから。
自分のことすらも……。
「せめて卒業するまで……、いいえ、20歳になるまで待っていれば――」
「いい加減にしろよ!愛は何も覚えてないんだぞ!怖がってんだろ!」
母親の叫びを遮り、俺も声を上げる。
ずっと両親を見て震えていた姉は、初めて俺に目を向けた。
「大丈夫か?愛……、あ、愛ってお前の名前で、俺は弟。純。初めましてでいいのかな?」
俺は、ひどい弟だ。
何も覚えていないのをいいことに、まるでずっとその呼び方だったかのように姉の名前を口にして、
傷口に付け入るかのように、誰よりも優しく接した。
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