負け犬の凱旋

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 祖母、梔子零子はどうやら俺の提出物を読み終えたらしく紙を目の前の机に置いた。  その机のさらに奥にいる俺に視線を移し、同時に吸っていた煙草の煙を吐き出した。 「で、なんだいこれは?」 「ふ、不当な労働を強いられ、なおかつその拘束時間に見合っただけの給金を支給されないことに対しての抗議文です……」  その射殺そうとでもしているのか、と言いたくなるような眼光のせいか語尾に向けて声が小さくなるのを感じた。 「宝一。梔子宝一(くちなし ほういち)」 「はい、宝一です……」  ちょっと、孫の名前をフルネームで呼ぶのやめていただけません?  夢に出るから、多分うなされるから。 「で、これはなんだい?」 「……」  同じ言葉で追問する祖母。  やばい……。  笑ってる。  何が笑ってるって膝が笑ってる。  一見、目の前の人も笑ってるみたいに見えるけど、あれ笑ってないもん。  ごみを見る時と同じ目してるもん。  この前、捌いた後に出る鯛の頭を捨てる時もあんな目してた。  ん? いや待てよ。よく考えたら鯛のお頭って高級品じゃないか。  え? もしかして俺そんな高貴に見られてたりするの?    何それ、俺超愛されてるじゃん。  やばい、超照れるんですけど。  違うか?  まあ、違うだろうな……。 「はぁ……。常々、馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど、まさかここまでとはね……」 「いやちょっと待ってくださいよ。俺の意見も一理くらいはあるんじゃないんですか? 身内だからって学校から帰ってきてからこき使われ、もらえる賃金も雀の涙ほど。今どきの高校生だって小遣いでもっともらってますよ。こんな孫を見てかわいそうとは思はないんですか?」 「私のことを悪だという小童に懸ける情はないね」  てへっ☆。  よし。  これで誤魔化せた。  危ない危ない、危機一髪だったぜ。
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