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料亭「梔子の花」。
主な顧客は、法事慶事、接待、それと少しセレブ思考な婦人御用達の店。
いわゆる少し敷居の高い日本料亭。
それが俺の実家である。
祖母、梔子零子はこの「梔子の花」にて女将を務めている重鎮であり、そして俺はというとこの店にて女将の孫という立場を利用され安い給金にてこき使われている今をときめく薄幸の高校二年生、梔子宝一である。
何なの?
今をときめく薄幸の高校生って。
自分で言っていて馬鹿なんじゃないかと思う。
この場合「薄幸」っていうよりは「発酵」って言ったほうが適切じゃない?
発酵の高校二年生。
あらやだ!! 酒とか醤油作るのすごく得意そう!!
ああ……うん。やっぱりバカだな、俺。
もうこのまま発酵して新しい俺生まれろよ。
ついでに一生働かないで生きていけるほどの裕福な家庭も希望。
「取りあえずあんたの待遇については後回しだよ。さっさと調理場に行って仕込みを片付けてきな。あんたみたいな追い回しもいないよりはましなんだからね」
「追い回し? なんすかそれ? 取りあえずウサギでも追って子フナでも釣りに行けばいいですかね? 任せてください、俺そのためだけに生まれてきたような人間ですから。それじゃあちょっと熊坂山に行ってくるんで長期休暇もらいますね」
突如目の前が真っ暗になった。
手持ちのポケモンがいなくなったのかと思ったのと同時に万力で締め付けられるような痛みが顔面を襲う。
鷲掴み。またの名をアイアンクローという。
「どこに行くきだい? あんたの故郷はここだよ」
「すみません!! 嘘です!! 助けてください!!」
だがしかし、さすが年を重ねているだけある。
童謡「ふるさと」とかけた高度なボケに気づくとは。
この祖母只者ではない、握力含め。
確かに調理場内で追い回しは俺の仕事ではあるが調理のサポートをする仕事と言えば聞こえはいいが別の言い方をしてしまえば使いっぱしりなのだ。
ひたすら疲れるだけのお仕事。
大したことはしないけれどその代り雑務はすべてこの追い回しに回ってくる。
要はパシリだ。
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