第一章 籠の中の記憶探偵

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 事実、校内の出来事に限れば、定期テストの順位から同級生の三角関係の内部事情まで完璧に把握しているらしい。俺に言わせれば探偵と言うよりはワイドショーだが。 「あたしのカンが言ってるの。この事件は殺人の可能性があるって」  彼女の表情に冗談の気配はない。真顔で、真剣に、俺を真っ直ぐ見据えていた。 「そう、これは音楽部創立以来の天才ボーカリストであり、高校生探偵であるあたしの出番に違いないわ。推理漫画の王道よ」  首吊り死体を指差し、風間が嬉しそうに声を弾ませる。 「ミジンコほどの期待もしちゃいないが、一応話だけは聞いてやる。見せてみろよ、お前のお手並みって奴を」 「任せて! まずは――」  風間がおもむろにポケットから携帯電話を取り出し、キーを操作する。現場を画像に残すつもりなのだろうか。  慎重な操作。  そばで見ている俺にでさえ緊張感が伝わってくる。  一体何をするのだろうか。長いようで短い時間が過ぎる。  そして、ようやく。風間はおもむろに携帯電話を耳に当てた。 「あ、もしもし。警察ですか? 高校に死体があるんですけど。はい、場所は――」 「通報かよ! 高校生探偵はどこに行った!」 「市民の義務じゃない。何を言ってんの?」 「探偵だったら推理しろ!」 「警察に任せた方が確実だし? 通報は常識よ常識。これぞ天才高校生探偵の機転ってヤツよ。普通の探偵は推理するところを即座に通報。うん、斬新」 「そうですよね! 常識ですよね! 斬新ですよね! はい、解決だ! めでたしめでたし!」 「ちょっと、電話中なんだから大声出さないでよ。警察の人が困ってるじゃない」 「俺のせいかよ!?」  理不尽だ。あまりにも理不尽だ。 「……ったく。いつもいつもバカみたいなことばかり言いやがって。少しは俺のストレスを」 「でもさ――」  ぶつぶつと呟く俺の愚痴を、通報を終えた風間が遮った。 「震え、止まったわよね?」 風間がにこり、と笑い俺の顔を覗きこんだ。  彼女に言われて初めて気付く。いつの間にか俺の体の震えは収まっていた。  はぁ、と嘆息し諸手を挙げて降参する。どうも、この女には敵いそうにない。 「警察が来るまで少し時間がかかるみたいよ」  風間が携帯電話を閉じ、告げる。声色には怯えも動揺も感じられない。つくづく大物だと思う。でなければ突き抜けた馬鹿だ。 「それじゃ、警察が来る前にやるコトやらないとね」
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