第1章 少年

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 父親である院長に何を言っても暖簾(のれん)に腕押しで、具体的な情報を得られないままだ。    (父さんに口止めされているんだ)  そう思っていたら、看護師から『大丈夫ですよ』と、愛想笑いをされて、  (ああ、いつもこれだ。誰も病気のことを教えてくれない)  と、釈然としないまま、帰宅するのが日課になりつつある。  原因なら当人にも見当がついている。  腰にある瘤(こぶ)だ。  松葉杖を突きながら、桂男は瘤を恨めしく思った。  生まれた時からあり、ドッジボールほどの大きさがある。  このままでは車椅子、いや、もっとひどい症状になるかもしれない。近頃では椅子に座るのさえ苦痛で、寝るときだってうつ伏せの姿勢で睡眠をとっているような按配だ。
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