第1章 少年

5/9
前へ
/306ページ
次へ
 今まで定期的に精密検査を受けていたが、レントゲン写真一枚、目にしたことがない。  (なぜ?)  疑問で、その小さな胸が澱(よど)んでいった。    *  少年の担当医、野山康史(のやまやすし)は桂男の後姿を眺めながら考えていた。  世に絶望とはどんなものだろう。  言うまでもなく、八方塞がりで突破口がなく、一欠片の希望さえ見いだせない。それが絶望というものだ。  まさに浦見桂男という少年は、そういった状況にあった。  桂男は頭の中身が、ほぼ空洞という障害を抱えていたのだ。  
/306ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加