第1章 少年

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 ではなぜ思考し、IQも標準なのか?   秘密がある。  厳密には桂男は桂男じゃない。  これは本人も気づいていないが、頭蓋骨の代わりに変形した腰骨と、卵のようにカルシュウムの殻でできた外壁が頭蓋骨の代わりとして機能して、双子になりそこなった胎児の頭脳だけが生き残ったのだ。  つまり世にも希な畸形嚢腫(きけいのうしゅ)――それが彼だった。  桂男の脳は蔦が他の樹木の栄養を吸収するように、双子の兄弟の脳を萎縮させて、完全に体を奪っていたのだが、その異様な成長も十歳で限界を迎えていた。  今までは奇跡的に、なんとか普通に生活できたが、複雑に入り組んだ脊髄の神経は、子供から大人に成長するにつれて脳に過度な負担を与えている。  大人になるスピードに追いついていかないのだ。  それどころか成長とともに、脳は肥大化して体の機能を奪い、徐々にだが下半身を麻痺させている。  このままでは死を避けられないというのは誰もが予想していたものの、頭蓋骨に脳を移植するなど今の医学の限界を超えていた。
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