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つまり桂男を助ける方法そのものがない。
そもそも、ここまで育ったのは奇跡と言える。
戸籍上、桂男は院長の養子だが、本当は誰が父親や母親だったかも定かではない。
法律上は父親である病院の院長、浦見圭一郎(うらみけいいちろう)は世にも稀な奇形児の記録を得るのが目的で育てただけ、表面上は言葉や態度には表すことはなかったが、実験動物と同じ目で桂男を眺めていた。
もちろん戸籍がある人間なので、苦しまないように延命治療は行われるが、死亡した後、肝臓や心臓などの再利用できる臓器は他の患者に移植される予定になっている。
つまりいずれ死ぬことを前提に桂男は育てられたわけで、これでは牛や豚と変わらない。
それが公(おおやけ)にはできない浦見桂男の運命だった。
それから一ヶ月ほど経過して、桂男は自分の体に対する疑問を抱えたまま、静かに息を引き取ることになる。
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