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野山は臨終を確かめると、少年の身体から移植に必要な臓器や皮膚、角膜などを取り出して、まるで流れ作業のようにスタンバイしている医療スタッフに委ねた。
すべては院長と勤めている病院のため、そしてもちろん命を預かっている患者の利益のためでもある。
しかしながら手術室から出ながら、釈然としないものを抱えていた。
(本当にこれで正しかったのか?)という気持ちが強く責めていた。
たしかに院長の庇護(ひご)がなければ、あの少年は十歳まで生きられなかったろう。
(しかし幸せだったのか?)
そう思うと、野山の気持ちは重い。
ふと、廊下の窓から空を眺めると、いつの間にか満月が出ている。
「あ、虹……」
と、その時、野山はつぶやいた。
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