ミセス・ターニャ

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 ターニャと初対面。第一印象は大きくて強そうで怖そうなおばあさん。学校から送られてきた書類には「ターニャ・スミス。60代女性、1人暮らし」とだけあり、写真は無かった。勝手に小柄な女性を想像していたのでちょっと驚いてしまった。彼女は 「ハロー、ディア。私はターニャ・スミスよ」  と言って私にハグをしてくれた。このディア(Dear)はターニャの口癖だった。 「はじめまして。私はハナです」  ハグされたまま私は言った。 「中に入って」  私は重たいカバンを抱えながら中に入った。家は落ち着いた赤で統一されていて外の寒さが嘘であるかのように温かかった。キッチンからはスパゲティ・ボロネーゼの香りがする。  運転手さんは私のスーツケースを二階まで運んでくれた。その後、何やらターニャと話していた。私はその間、廊下でうろうろしていた。運転手さんは 「バーイ!」  と手を振って去った。私は何度も"Thank you"と言いながらお辞儀をした。 「夕食は食べた? 夕食作ったのよ。食べる?」   ターニャは夕食を用意して待っていてくれたが、時差ボケのせいかお腹は空いていなかった。最初から食べないのも失礼かもしれない。 「Yes(はい)」  Yesは何て便利な言葉なのだろう。知っている単語はもっと他にもあるはずなのにとっさに出てくる言葉はYesだった。  キッチン兼ダイニングに案内された。そこにはアジア人男性がいた。 「Hi」  と真面目そうな男性は答えた。20代後半だろうか。日本人のような顔立ちだった。 「初めまして。僕はアダムです。よろしくお願いします」  驚くことに彼は日本語で挨拶をした。イギリス初日。まさか日本人以外の人から日本語を聞くとは思わなかった。 「初めまして。ハナです。こちらこそ。日本語お上手ですね!」 私も日本語で答えると彼は 「ちょっとだけ」 と照れ臭そうに笑った。  ターニャはとにかくよく喋る。あまりにも私が理解できなかったのでターニャはアダムに「日本語に訳して!」と言い、肩をつついていた。
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