ミセス・ターニャ

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「ハナ、たぶんあなたのお父さんから電話よ」  ターニャが受話器を私に手渡した。やっぱりである。私の勘は当たった。 「もしもし、元気か?」  父の声がすでに懐かしかった。 「はい。今食事中だから」  本音とは裏腹に冷たい口調で答えた。 「ああそうか。無事着いたなら良かった。それだけ。じゃあ気をつけて。また連絡するから」  無口な父はいつも、体が弱い私を心配していた。 「はい、またね」  私は不愛想に言い、電話を切った。椅子に座るとスパゲティを器用にフォークで巻きながらターニャが笑った。 「あなたのお父さん、私のことをミセス・ターニャと言っていたわ。 オホホ。ミセス・ターニャ!」  英語が大の苦手な父。ターニャは苗字じゃない、苗字はスミスだから「ミセス・スミス」と呼んでとあれ程日本で言ったのに…。 「すみませんでした」  父の代わりに謝る私。 「いいえ、いいのよ。私は気に入ったわ」 「これからミセス・ターニャって呼んでいいですか?」  アダムが嬉しそうに尋ねた。 「もちろんよ」  それから私とアダムは、父のせい、いや、父のおかげで「ミセス・ターニャ」と呼ぶようになった。
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