第13章 最後の試練

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第13章 最後の試練

 シェイラ一行が、ウイリィーキングマウンテンの裾野についたのは、夕日が傾く頃だった。  街は、賑わっていた。先ずは宿を取り、明日の朝、山に登る事にした。宿は、結構高く、持ち金で泊まれる所を探すのに時間がかかり、部屋に入った途端、シェイラは、空腹を思い出した。この、一週間の旅ではまともなものは食べてないので、おもいっきり食べたかった。よかったことと言えば食事付の宿だったと言うことだ。 「さあ、食べるわよ!」  宿の食事はビュフェ式で自分で食べたいものを好きなだけ取れるというバイキング形式。  その日のシェイラは、久しぶりに幸せを味わった。  次の日、シェイラは、日の出とともに目が覚めた。朝の空気を味わおうと外に出たら、宿屋の女将さんが出ていたので、声をかけた。 「おはようございます。女将さんにお聞きしたいことがあるのですが...」 「何でしょうか?」 「この羽根に、見覚えは有りませんか?」  シェイラは、母親が、大事に持っていたという白い羽根を女将さんにみせた。もしかしたら、何かの手掛かりになると思った。 「おやおや、珍しいね。山に登らずに天使様の羽根を持っている人がいたなんて。」 「天使の羽根ですか?」 「たま~に、山から下りて来る人が持ってくる事があってね。幸運のお守りだっていうのさ。  この山には天使様がいるという伝説があるからねえ。」  天使の羽根か。  何故、母さんが。  ま、いいか。  山に登ればわかること。  さて、朝ごはん食べて出かけるか。 「女将さん、ご飯頂戴。」 「はいはい。」  朝ごはんを食べ、シェイラ一行は、ウイリィーキングマウンテンに向けて出発した。  歩くのは辛いので、風の精霊シルクの風に乗って八合目までやって来た。そこから、歩いて九合目付近でシェイラは、叫んだ。 「黒龍さん、出て来て。話がしたいの」  しばらくして、空に黒龍が現れた。 「私に何の用かな。気配はただの人間のようには思えないが。」 「私は魔法師。ただ、私には特別な光があるみたいなの。あなたなら、見抜けるかと思って訪ねて来たのだけど、わかる?」  黒龍はしばらくシェイラを見ていた。 「君には天使の血が流れているね。だから妖魔達は、その光を見て、力ある人間だと思い襲ったと思うよ。」 「天使なんて本当にいるの?」  シェイラは聞いた。 「この山にいるよ。頂上の左側が雲に隠れているだろう。あそこが、天と地の境だ。気になることがあるなら行ってみるがいい。だいぶ前にも女の人が天使を訪ねて来たよ。」  母さんだ。じゃあ、父さんは天使? 「私、行ってみる。でも、黙って行っていいの?」  黒龍は答えた。 「私が伝えておこう。心配しないで行ってみるがよい」 「ありがとう」 そう言って黒龍はどこかに飛んで行った。  急ぎたいのでシルクの風を使うことにした。 「シルク、急いであの雲の中へ。」  雲の中へ入った途端、稲妻が走る。  容赦なく、シェイラ達に雨粒がぶつかる。    間もなくして威圧感ある声がした。 「ここは人間が来る所ではない帰れ!」  シェイラは答えた。 「帰る訳にはいかない。黒龍とも話をしてきた!」  しばしの無言が続く。  そして、 「お前はシェイラかい?」  それは、先程の声とは違う、優しい声だった。 「はい。私の名前はシェイラ・ラファエル。父と母を探しに来ました。」  先程の稲妻も雨粒も嘘のように止み、青空となった。 「シェイラ、私の愛しいシェイラ。会いたかったよ。」  目の前に天使が下りてきた。 「あなたが私の父さん?」 「そうだよ、我が子のシェイラ」 「この羽根はあなたのもの?」 「そうだ、私が置いてきた物だ。」  父さん...とシェイラが近づこうとしたとき 「シェイラ、騙されないで!その天使は父さんじゃない!」  急に女の叫ぶ声がした。  シェイラは、天使から数歩離れた。 「何故、邪魔をする。この子を気持ち良く、天の国へ導いてやろうとしたのに。」 「あなた、何者?」 「私は正真正銘の天使だ。お前の父さんは天使でも、地上に近いところで働く堕天使さ。」  堕天使? 「お母さんは?」 「堕天使と仲良くなり、掟を破り、腹に子を宿した罪人さ。下の方で神から依頼された仕事をこなしている。」 「何てことを」 「父さんと母さんを返して‼️」  シェイラは天使に懇願した。 「そうだねぇ。条件がある。」 「その条件をクリアしたらお父さんたちを解放してくれる?」 「あぁ、君も一緒に地上に行かせてあげよう。」 「その条件って何?」 「そうだなぁ。我々の下っぱと戦い、君が勝利したらでどうだい。」 「無理に決まってるじゃない。天使を相手に私が勝つなんてあり得ない!最初からわかっていることでしょう」 「確かにそうだねぇ。天使に勝とうなんて100%無理なことだ。それなら、こいつが、参ったと言ったら解放するってのはどうかい?」 「それだって無理よ。天使って強いのでしょう?」 「そうさ、強い。誰よりも強くなきゃいけない。しかし、こいつはまだ、ここに来たばかりだ。多少は弱いかもしれないよ」 「それとも、自信がないのに、このまで来たと言うのかい?」 シェイラは考えた。すんなり終われると思っていた。なのに、意地悪な天使にあったばかりに戦いをしなきゃいけないなんて。  心のなかで、ダークネスに確認した。手伝ってもらえるのかと。  答えはノーだった。天使属の世界に手出しは出来ないと。シェイラは迷った。迷った挙げ句に出した答えは 「戦ってやるわよ。全身全霊、出来るところまで。」 「ウ―ラニア、お前が相手しろ。」 「わかりました。シェイラさん、恨みは無いけど、おもいっきり戦わせてもらうよ。」  シェイラも答えた。 「こちらも本気出します。」  戦いは始まった。先手はシェイラ。 「ヴァイス・フレア!」  火力が強い攻撃だ。 「まだまだだな!」  ウ―ラニアは、シ―ルドで、シェイラの攻撃をかわした。 「次は僕が行くよ、バレット!」  天使は短い呪文で攻撃が出来る。 「アルマロス、岩の壁を。」  土属の妖精アルマロスは、シェイラを岩の壁でシェイラを守る。 「そうか、妖精達まで裏切るんだね」  シェイラが、攻撃する。 「デモナ・クリスタル!」 「嫌な攻撃だね。」  ウ―ラニアは、そう言いながらも、全然、こたえている様子は無い。 「どうしよう」  シェイラが弱音を吐くと、精霊達は、シェイラを励ます。 「頑張るんだ、シェイラ。あなたは、一人では無いのよ!」  その言葉に背中を押されて頑張るシェイラ。  ウ―ラニアは鋭い風の槍で攻撃してきた。 「デュロ」  槍を一本にまとめて、転がってかわした。 「やるね。でも、まだまだ、これでどうだ!」  頭の上から稲妻が降ってきた。 「ウインデ―ネ、分厚いシ―ルド」  稲妻が四散する。 「しぶといなあ。これもダメ?」  炎の雨が降ってきた。 「ウインディシ―ルド」 「やるね」 「今度はこちらから行くわよ、ヴ・ヴライマ」 「ダグ・ハウト」   連打で応戦する。ゴ―レムを盾に足元から槍が飛び出す。 「凄いね。ここまでやるか」 「班長白幡」  ウ―ラニアは、簡単に白幡をあげた。 「何故?まだ傷つけてないのに」  シェイラは不思議に思った。 「簡単な事さ。いくら攻撃してもシェイラは守られている。そして、おもいっきり攻撃をして来る。鬼ごっこだよ。いつまで攻撃しても避けられるばかりだし、攻撃を受けている僕も攻撃と防衛の繰り返し。これじゃ、いつまでたっても終わらないよ。」  班長と呼ばれた天使は考えた。 「そうか、それなら仕方ないね。」  天使は笑顔でシェイラに寄ってきて、 「仕方ないね。君の粘り勝ちだ。両親と山の麓に下りていいよ。許す。」  緊張していたシェイラは、その場に崩れ落ちた。 「よかった」  その一言言って気を失った。  どれくらい経ったのだろう。  気がついたらベッドの上にいた。  近くにいたのは... 「お父さん、お母さん」  シェイラは呟いた。 「頑張ったね、シェイラ。」  戻ったんだ。日常に。 「よかった。」  涙を流すシェイラ。     あれから半月後。  シェイラはまた、旅に出た。 「修業をもっとしなきゃ」  ...らしい。  ただ、また、戻ると約束をして。  父と母に笑顔で 「行ってきます」  と、当てのない旅にシェイラは、出かけて行った。                                    ...end  
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