第1章

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<無題> 彼が軽く手を上げてマスターを呼んだ。 軽く耳打ちして、あたしを見てほほ笑む。 カウンター席を降り、彼は後ろに歩いて行った。 あたしはそれをチラッと見て、納得すると、腕をカウンターにおいて頭を乗せる。 メジャーな音なのにフラットにフラットが重なって マイナーに聞こえるような危うさの音階。 「意地悪な音」 彼の音階の波にのまれる。 大きな彼の手は切れるように音を叩く。 その危うい流れにまた一つ音が重なった。 突然はじまるハッピバースデー。 カランと目の前の氷が落ちた。 くすっとあたしはほほ笑む。 「優しい音」 あたしは目をつむり、また波の中に入っていった。 <了>
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