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<無題>
彼が軽く手を上げてマスターを呼んだ。
軽く耳打ちして、あたしを見てほほ笑む。
カウンター席を降り、彼は後ろに歩いて行った。
あたしはそれをチラッと見て、納得すると、腕をカウンターにおいて頭を乗せる。
メジャーな音なのにフラットにフラットが重なって
マイナーに聞こえるような危うさの音階。
「意地悪な音」
彼の音階の波にのまれる。
大きな彼の手は切れるように音を叩く。
その危うい流れにまた一つ音が重なった。
突然はじまるハッピバースデー。
カランと目の前の氷が落ちた。
くすっとあたしはほほ笑む。
「優しい音」
あたしは目をつむり、また波の中に入っていった。
<了>
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