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呑気に俺が、頭の中をピンクにさせていたその夜も――立花さんの力強い腕の中では恐怖は全て払いのけられてぐっすりと眠ることができた。
だから――。
やっと俺達はこれからゆっくり心を通わせて行けばいいんじゃないかなって思っていた。
少しずつ少しずつ、今までの溝を埋めていけられたら、俺もその間に自分のトラウマを払拭させようと、乗り越えようと思っていた。
「立花さん、領収書、すべて纏めておきましたよ。まだ何かありますか?」
剃刀が怖くなってしまった今、立花さんの秘書と言う名の事務仕事は自分に向いていると思う。
なかなか人を信用しない立花さんは、誰かに頼むぐらいならば自分でしてしまうような不器用な所があるから、俺が少しでも負担を減らせられたらいいなって思っていた。
「……助かっているが」
何か言おうとして立花さんは言葉を濁した。
「いや、何何でもない」
「じゃあ、菊池さんのリスト制作の補助に回りますよ」
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