十一、蜜月と嘘月

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「そうだな、それでいい」 すぐに表情を戻した立花さんは、胸元の内ポケットから何か取り出そうと手を入れた。 ただの、今まで通りの日常の一コマだ。 あんな場所から拳銃を取り出す事なんてきっとこの先、二度とない。 「榛葉?」 「――っ」 二度と、ない。 二度となんて、ない。 そう思っていたのに、俺は頭を両手で押さえて蹲ってしまっていた。 無意識で、無自覚で、反射的に。 「怖かったのか?」 「た、立ち眩みです」 「――榛葉」 低い声で、嗜めるように言われると、俺は何も上手く誤魔化せる言葉が出ない。 「立ち眩みですって。あはは。菊池さん菊池さん」 立ち上がって踵を返し、菊池さんのいるフロアへ移動しようとしたら、そのまま立花さんに手を掴まれてソファへ突き飛ばされた。 「俺に嘘をつくのか?」 「た、ちばなさん」 「――嘘をつくのか」 「嘘、じゃっ―――んんっ」 強情だと言わんばかりに無理矢理唇を奪われる。
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