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「立花さんっ」
やっと離れた唇から、糸が伝うのも見て羞恥で死にたくなる。
けれど、苛立った顔の立花さんにはソレが目に入っていないらしい。
「まだ事件を思い出すのか」
「……ごめんなさい」
「……」
立花さんは俺の上から退かないけれど、難しそうな顔をする。
その気持ちを言葉にしてくれたら嬉しいのに。
「で、も、その油断した時とかだけで、普段は平気なんです。一瞬だけ。不意をつかれたらと言うかなんというか」
「フラッシュバックというのはそんなものじゃないのか」
「そうなんですか? でも、――立花さんのせいじゃないからどうか責任を感じないでください」
俺の心が弱いだけ。立花さんが心を痛める必要はない。
そう言いたかったしそう言ったつもりだったのに、立花さんの顔が険しくなる。
今すぐ殴られそうな、負のオーラに思わず目を瞑ると、立花さんの人差し指が俺の唇をなぞり、口の中へ入って来た。
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