十一、蜜月と嘘月

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結局、その後すぐに立花さんから菊池さんに、俺を社長室から出すなと連絡が入り、俺は定時まで社長室でプチ軟禁だった。 話し合いたいと思ったのは、俺は彼を大切に思っているから。 た、いせつに。 そう思うと、胸が熱く、苦しくなる。 そうだ。俺は、あの不器用な人がどうしようもなく愛おしいんだ。 だから、優しくして欲しいし、俺の話をちゃんと聞いて欲しい。 傍に居て欲しい。 素直にこの気持ちと、俺が美容師として致命的な恐怖を今、克服しなきゃいけないことを彼に伝えよう。 信じてなんて安っぽい言葉では無くて、本当の俺を、あの人に見て貰おう。 車を走らせて、マンションへ帰る。 彼がタクシーで帰ったのは、受付の人から聞いていた。 車で帰らなかったのは、俺を足を奪わないためなんだと、今なら気づける。 部屋のドアを開けるのが怖くて、情けなくて手が震えたけれど、それは今まで俺が逃げていたから。 恐る恐るドアを開けると、乱暴に脱ぎ散らかした彼の靴があってホッとする。 「た、ちばなさん」 声を掛けるが返事はなく、もう一度声をかけようとして、テレビの音が聴こえて来たので耳を済ませた。 『赤ちゃんみたいに、すべすべの肌』
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