十一、蜜月と嘘月

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「怖いだろうが、悲鳴をあげようが、止めないが――それは恐怖でお前を縛りたいからではない。いいな?」 「――っ」 「止めて下さいと言われても止めない」 剃刀を、目の前に突きつけてそう言うと、榛葉は弱々しく口角を上げた。 「た、立花さんが、やめてって言って止めたこと、ないです」 「……あるだろ、多分」 どれだけ榛葉は俺の事を、脅迫者に仕立て上げているのか知らないが――、今回は本気だ。 「俺の目を見ろ、榛葉」 その恐怖で滲んだ瞳で、俺を見ろ。 ズボンに手を掛けて、下着を下ろして、やっと毛が生えてきた場所にクリームを塗る。 小さく息を飲んだ榛葉は、それでも俺を見つめている。 瞬きも忘れて。それは恐怖からだろうか。
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