一、浚われる日常。

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サイレンは聞こえるけれど、まだ消防車は到着していなかった。 代わりに、近くの交番の警察官が避難を誘導していた。 その警察官二人は、顔見知り――というかストーカー事件で何度か御世話になっていたし、家を荒らされた時に現場を見てもらっていた。 燃えているのは、俺が働いているヘアサロン『RIG』がテナントで入っているビルだ。 丁度燃えているのは、『RIG』。 思わずコンビニの袋を地面に落とすと自分も膝から崩れた。 一瞬で人は地獄へ落とされる。 でも、それは――俺の場合、自分が悪かったことは一回もない。 いつも巻きこまれるんだ。少なくてもそう思っているのに。 「愛沢!!」 座りこんでいた俺の胸ぐらを掴んだのは、目が血走ったヘアサロンの店長、葉山さんだった。 「通報があったんだよ! お前がコンビニへ行ってすぐにお前のストーカーが火を放ったってな! お前が!お前が俺の店を」 ストーカー。 その言葉に鼓動が速くなる。 俺が店に居ると思って火を放ったのだろうか――。
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