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「前回は、どこまでお話したかしら?」
「お嬢さんがお生まれになって、暫く休業されてたところまでです」
「あら、まだそんなところだったのかしら? イヤだわ。歳はとりたくないものね?」
「そんな、まだまだお若くて、お綺麗で、羨ましい限りです」
「ふふっお上手ね。でも嬉しい。ありがとう」
一流と言われるホテルの一室、
艶かしく磨き上げられたアンティークのようなテーブルを挟み、
仕事用の愛想笑いを浮かべて、
誰にでも使ってるでろうお世辞を口にするゴーストライターの三十代の女性。
何でも私の自叙伝を出版するらしい。
そんなことにも、
もう驚きもしないけど……。
けど、
そんなものを出したところで、
わざわざお金を払ってまで
一体誰が読みたいと思うのかしら……。
今年で53歳になる私は、
この仕事を初めて50周年を迎えてしまうらしい。
別にそれがどうしたって感じよね。
ただ歳をとったってだけじゃい。
そんなの褒められるようなものでも、祝ってもらえるようなものでもない。
私には、
もっと大事なものがあるもの。
いくら仕事に誇りを持っていても、
それくらいのものでしかない。
あの子たちに寂しい思いをさせて、
ただ好きなことをやってきただけなんだから……。
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