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ただ「面倒は俺がみる」と言って連れてきた癖に、放っておかれるのはどうだろうと仁のことが頭をかすめた。遊馬はすねた気持ちになって、腰に回された腕を振り払うことはしなかった。
黙ってプッシーキャットを飲みながら、ただかわすように笑っていた。
「おいこら、電話くらい出ねえか」
いきなり聞こえてくる聴きなれた低い声。
男と反対側に座った仁が、まるで誰もいませんというように遊馬に話しかけてくる。
顔を上げると、マスターが背中を向けるのを見て、連絡がいったことに感づいた。一度誘拐されてから、過保護にも遊馬用連絡網ができているようだった。それは忍にしても同じだったが、ふたりして笑えないと愚痴をこぼすことがある。
「来た、保護者。携帯は部屋に置いてきたんだって」
「ほんじゃあ、出る前に電話くらい寄越さねえか」
「自分は勝手に出て行く癖に、よく言うよ」
精強な体躯が黒いジャケットの下で隠しきれず盛り上がっている。迎えに来たということは、他の男のところに居たわけじゃないと考えて変に安心する。
隣で腰を抱いていた男が、耳元で「君のパパ?」と仁を見ながら囁いた。思わず、よろけるようにこけて笑い飛ばす。何を言われたのか気になった仁が、隣で顔をしかめている。
「うん、パパなんだ。怖そうなパパがいるけど、それでも僕でいいの?」
まだ離れない腰の手を握って日本語で話すと、ぎゅっと握り返してくる。かなり根性が入っているやつらしい。
「君のことが知りたいんだ。もっと教えて」
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