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ヒルトンのエレベーターへ乗り込むと、ホテルの客らしき人で奥へと押しやられる。まさか予約でもしていたのかと仁を見たが、ここで聞ける話ではないかと口をあけずにおいた。
マンハッタンのチェルシーホテルより、もっと高級な階層を狙った部屋の造りは、マホガニーで統一された落ち着いた部屋だった。
窓の外には繁華街のネオンに混じって、クリスマスイルミネーションが蒼く光っている。ニューヨークのそれとは規模が違いすぎて、比べることもできないが、それでもクリスマスの雰囲気は味わえる。
「アズ、飯は食ったのか?」
「うん。カップラーメン食った」
忍のように料理が得意でない遊馬は、仁が作るものを食べるか、惣菜くらいですぐに満足できる。しかし、それを聞いた仁は酷く怒ったように、レストランに誘ってきた。せっかくの誕生日を兼ねた食事なのに食べないのかとしつこい。
遊馬はカウンターバーを見つけると、冷蔵庫にあったカクテルを取り出して瓶の蓋をあけた。飲み損ねたジュースの変わりに、少しだけ苦いそれを舐めると、瓶を持って隣の部屋へと歩く。
開け放たれた部屋がベッドルームなのは、その半分が覗いて見えていたからわかっていた。フンフンとクリスマスソングを鼻で歌いながら入ってみると、キングサイズのベッドが目に入る。
(え? ……ツインじゃねえの)
この部屋しか取れなかったのかと疑ってみたが、ニューヨークですら、この時期は高額なうえに部屋など取れることはまずない。意図的に、ここにされたような気さえしてきて胸がざわついてくる。
「もしかして、朝ってバイキング?」
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