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「おう。百種類あるらしいから、好きなもん食えるぞ。まあ、飯は朝でもいいか」
何気なしに訊いたそれに、本当にここに泊まって行く気なのだと知れて後ずさった。仁は入ってきたすぐの部屋でテレビをつけて寛いでいる。
「どういう、つもりなんだよ」
ベッドルームの入り口に立ってひとりつぶやく。テレビの音でかき消されたそれは、仁には届いていなかった。
どんな意図があるか知らないが、とにかく普通にしなければと、瓶を片手に仁の近くに座る。
マンションはリビングと他にそれぞれの部屋があって、お互いに干渉はない。それでも、仁が部屋を出て行くときは大概リビングでテレビを見ているときか、遊馬が部屋へ引っ込んでいく時間など、何かしらのモーションが見られていた。わざとわかるように出かけていたのかもしれないと今頃思いつく。
「忍先生を匠さんに盗られちゃって、淋しいんだろ。二人で誕生会つっても、やることねえじゃん」
馬鹿騒ぎして終わるクリスマスもなく、広いだけの部屋でテレビを見てるのもつまらないだろうと声を掛ける。冬の日の入りは早く、八時前だというのに部屋のなかはすっかり深夜のような気配がする。あのまま店で飲んでおけばよかったのにと、仁に出かけるように促した。
「俺とじゃ不服か。こんなのも、たまにはいいだろぉ」
仁は隣に腰掛けた遊馬を引き寄せると、セットしていた髪をぐちゃぐちゃに撫でまわしてくる。
「ああもう、わかったから、するなってば」
「お前、風呂入って、その髪のやつ落としてこい。べたべたしやがる」
勝手に触っておいて、ワックスが手についたじゃねえかと怒り出す。別に見たいテレビでもなく、言うとおりに風呂場へ向った。
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