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座り心地につられ、夜景を見ながらマッサージを始めると、途中でやめられなくなってくる。眠るほどでもないが、なんとなく落ちた明かりのせいで目を閉じていた。
しばらくすると部屋にBGMが流れ出して、目を開ける。すぐ隣で重い音がして、バスローブ姿の仁が目に入った。
「もう眠いのか」
「ちげえし。仁さんもやってみなって。腰、楽になるよ」
「そりゃまあ、誘われてるみてえだな」
その言葉は華麗にスルーして、彫師の仕事は前屈みの上に、長時間同じ姿勢で痛いだろうと躰を気づかった。
仁の濡れた髪は何度も見ているが、ものぐさですぐに長くなるせいか、セクシーすぎて目を眇める。バスローブからはみ出した腕も脚も、刺青だらけで、しかも逞しくて触れたくなる。
遊馬が仁に惹かれるのは、父親の存在を知らないせいかとも思うが、ごつごつとした体躯の相手が好みなのは昔からかもしれない。
「アズ。お前本気で労い彫りをやりてえのか?」
いきなりのことに驚いて、仁のほうを向くと目を見開いた。
「あ、え、忍先生になんか言われた?」
「まあな。まだ早いんじゃねえかと言ったんだが。忍に、じゃあ俺は何だったんだと言われりゃあよ。言い訳がきかねえだろ」
確かに忍は遊馬より若い年齢で労い彫りを受けていて、遊馬には早いと言われれば理不尽というものだろう。遊馬にしては良心の呵責があって、堂々と世界一の業を受けてみたいなどと決して口にはできないが、そのほうが綺麗だからとしか言えなかった。
「はぁ、……でもよ。やるこたやらねえと、彫れねえんだぞ」
嫌そうなため息が聞こえて遊馬の胸がきりきりと痛む。
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