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 煤竹(すすたけ)を使った二重扉をからからと音を立てて開けると、広々とした土間が現れる。遊馬美樹(あすまよしき)は、いつものように朝比奈忍から預かった鍵で店を開けて中に入った。  遊馬が彫龍(ほりたつ)の鍵を預かって二年。十六の夏にニューヨークから日本へと移住してきて、クリスマスを前に十九の誕生日を迎える。  日本へ連れてこられてすぐ、遊馬は勘違いで人攫(ひとさら)いに遭った。そのとき忍が銃で撃たれ、ごたごたが続いていた最中、遊馬はひっそりと十七の誕生日を迎えていた。そうして時間は流れ、年が明ければ、日本でいうところの成人式だ。  そうはいうけれど容姿は変わらず小柄で華奢であるし、筋肉質になろうと頑張ってみても、なかなか肉が乗ってくれず貧相な躰つきをしている。少しでも男っぽさを身につけたくて、あちこち穴を空けているが、彫龍ではピアスを禁止されていてつけることもままならない。 「おはよう、アズ」  彫龍の表に暖簾を出し、雑巾を絞って玄関の竹格子を拭いていると、刺青の師匠である忍がやってきた。時々鬼のように厳しい忍のしごきにも耐え、なんとか逃げ出さずにいるのは、ここが好きになったからだ。  忍は生粋の日本人だと思っていたのに、髪は亜麻色、瞳はこげ茶色、肌も白いときていて驚いた。彫龍で修行をはじめて一年経ったころに、忍のほうから孤児院で育ったことと、外国の血が混ざっていることを教えてくれた。少しは信頼してくれているのだろうかと、そのときは嬉しくなった。 「忍先生、まだパウダールームの掃除機かけてないよ」  今朝は目覚ましを止めて、二度寝したせいで少しだけ仕度が遅くなった。 「こら、遅刻か。まったく仁先生の影響を受けてるんじゃないか?」
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