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 遊馬の住んでいたマンハッタンのチェルシー地区は、ゲイパレードで有名な場所で、さらに屈強な男が多かった。遊び相手は人種問わずそういう男達で、後ろは処女だがそれなりの相手はしてきたし、口での奉仕で満足させない相手はいなかった。  仁とホテル住まいをしていた頃、そういう契約も含めて通訳として雇われ、金は受け取ったが、やったのは一度だけだ。 「仁さん、まだ寝ぼけてんのかよ」  口が悪いのはなかなか直らない。忍も早々に諦めて、仁に対するものの言いかたは注意されなくなった。 「誰かさんが寝かせてくれなくてよ~」  そう言うと、遊馬をちらりと見てにたりと笑う。しかしただのポーズ、やらせという類のもので仁とは真っ新な関係だ。その仕草は完全に忍へのあてつけだとわかる。  忍がまだ修行中だったころ、同じように住み込みで一緒に暮らしていたと聞いた。そして二人は躰の関係があり、それは八年続いたことも知っている。  それでも忍には新しい恋人ができた。全国に名を馳せる、光堂会の若頭をしている男で名前は匠蓮。遊馬は通り名でしか呼ばせてもらっていない。忍だけが、彼を本当の名前で呼んでいる。 「お盛んなことで。そろそろ腰を労わったらどうですか」  忍のきついひと言に、ふてくされた顔をして、仁が三の間へ消える。目覚めの珈琲でも淹れるのだろう。  お盛んなのは遊馬もよく知るところで、夜な夜な出歩いている姿をみればわかる。一生遊んで暮らせる金と、先生と呼ばれる地位を持ち、来る物拒まず、去るもの追わずの姿勢は、誰にでも魅力的に映るだろう。
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