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 そういう遊馬もずっと片思いだ。何せ、仁も同じように忍に片思いしているのを知っている。ニューヨークに来たのも、忍に恋人ができるのを見たくないが為だということを聞かされていた。  出逢って二年半、もう少しくらい我慢できそうだが、遊馬もそろそろお年頃で恋人くらい欲しい。仁のことは忍にからかわれるから、それとなく相談している。友達もいない場所では忍くらいしか話せる相手がいなかったからだ。 「アズ、帰りに昨日の話をつめよう。少し残ってくれ」  二の間に屏風を出していると、忍から声がかかった。遊馬は短く返事をすると、仕事用のアルコール綿の在庫をチェックしはじめる。  忍との話は遊馬の刺青のことだ。本来、弟子の刺青は師匠が仕上げてきたらしいが、それが決まりというわけではない。  だから、わがままを言った。労い彫りという業をやりたいといい続けて二年、とうとう忍のほうが折れる形で施術が決まった。  労い彫りとは明治から続く彫龍の業で、本来は女性に対して行うものらしい。しかし、忍の刺青は仁が施した、労い彫りで彫られている。施術のやり方は、実物をほかの男で見せられて知っている。  後ろに挿入されたまま、刺青の針を躰に打たれる、痛いセックスだ。  どうしても忍と同じでないと嫌だと言い張って、成人式を迎えると同時に労い彫りをしてもらえることになった。そうは言っても遊馬は後ろを使ったことがない。しかも忍も実際に経験したことはないと言っていて、とても完遂できそうにないと、師匠ながらに弱音を吐かれた。  だったら、仁にやって欲しいとねだった。どれだけ浅ましいんだと思ったが、それしか方法がない。
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