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仁と一緒にニューヨークを出てから三度目のクリスマス。
雨が多い国なのか、灰鼠色の空が窓から見える。日本のクリスマスは賑やかで、遊馬は少しばかり気が引ける。
育ったところが教会のせいか、クリスマスは静寂でミサで一日が終わっていた。おまけにニューヨークはマイナス十五度の寒さで、日本のクリスマスはいつも暖かい。
日本にきてコンビニの場所さえわからなくて、仁がいつもついて回っていた。彫龍の周りを覚えると、今度は匠が繁華街の歩き方を教えてくれた。極道らしくシマ争いがあるからと、危険な場所やら顔のきく場所を教えられ、遊馬がひとりで動けるようにしてくれた。
初めは、仁と忍を取り合うようにしていて苦手だったはずが、いつの間にか弟のように扱われるようになっていた。
忍から給料をもらうようになり、少しだけ自由ができて、仁が出ていってから、匠が教えてくれた店に気晴らしに出かけた。
今夜、約束があるわけじゃないし、待っていろと言われたりもしなかったから、黙って出てきた。
店のマスターは仁や忍とも知り合いで、危険なことがないようにと子守りつきなのは眼をつぶるしかない。壮年の仁と同じくらいの年齢だろうが、スマートできつめの瞳と細身の体型、何よりギャルソンの格好がすこぶる似合うひとだ。
今年のクリスマスは匠が忍を離さないからと、彫龍は明日まで店仕舞いにしてある。そのせいか、遊馬も時間を持て余し、変に洒落てしまった。
外してあったピアスをつけ、髪をワックスで整えると、ジーンズを穿いた。普段は着物のせいか、たまに着崩すと途方もなく遊び人にみられる。
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