聖夜

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 ひとりで飲みたい、といってもノンアルコールと限定されてるが、それでも雰囲気を楽しめるだけでいい。  いつものカウンターに座ると、じっと隣から向けられる視線がある。男同士の出逢いの場所だけに限らない店で、この視線は痛い。しかたなく遊馬は英語で話しかける。 「Have we met somewhere before?(前にどこかで会ってる?)」  ほとんどの男はこれだけで席を離れていくせいか、わざと日本語が苦手なフリをする。 「Not that I know of (僕はおぼえてないけど)」  何度か見かけたことのある男がこたえた。嘘だと気づいていたが、口元をゆるめるだけにした。  ニューヨークでは、金の交渉から入るし、こんな面倒くさい口説き方をするやつなんていない。もちろん遊馬がどういう人間かわかっているからの話しだが、それにしても好みじゃない。どちらかと言えば匠好みの綺麗な顔をした男だ。  黙っていると、遊馬のことを質問攻めにしてきて、困った顔をしてみせた。恋人にはなれないが、駆け引きは楽しめる。それに日本では無理やり連れ込まれるような危険なことはほとんどない。  流暢な英語を話す男は、ずっと見ていただの、かわいいだの、必死に言い募ってくる。  昔の悪い癖がでたのかもしれない、味見くらいならできるよと目をみつめて唇を舐めた。すぐに店を出ようとスツールの横から腕が滑ってきて、腰を抱かれる。もちろん本気でやろうとは思っていない。あの頃のように金だけがすべてだと思うことはなくなったし、仕事はあるし、食べてもいける。
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