死体処理サービスセンター

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 グラスにウィスキーを注ぐと私はそれを煽るようにして一気に飲んだ。味など楽しむ余裕などなかった。ただ、目の前にあるモノが消えてくれたらそれでいいと、お思いウィスキーを飲む。だが、目の前に横たわる現実は決して消えることはない。  手入れが行き届いた庭先に男が横たわっていた。中肉中背のどこにでもいそうな男である。けれど、男は横たわっているだけで少しも動こうとしない。触れてみて分かったが、男は呼吸をしていなければ体温も感じられなかった。精巧にできた人形かと思いもしたが、肌の感触といい。男は間違いなく人間だ。そして、男は死んでいた。  一つ、誤解を解かなくてはならない。私がこうして、ウィスキーを口にしているのは自分が犯した犯罪を忘れたいが為にではない。私は、庭に横たわる男とは一切面識がない。朝、起きて自分の広い庭を散策している最中に見つけたのだ。もしかしたら、物取りの犯行途中だったかもしれない。はたまた、広い庭に迷い込んで何らかの原因で死んだ。何にせよ、私には一切関係のない男の死だ。  最初、私は大慌てで警察に連絡を入れようとした。ポケットから携帯を取り出して、ボタンを押そうともした。だが、その指は途中で止まってしまった。自分は無関係なのだから、警察に連絡を入れればいい。だが、問題は警察に連絡を入れた後になる。警察は単に死体を引き取る業者ではない。私の家の庭で起きた不審死事件を検証する為に上がり込んで検分を初めてしまう。それは、非常に マズイことなのだ。  このご時世、散歩が出来るほどに広い庭を所有しているからにはそれ相応の利益を上げていることが分かるだろう。それが、正攻法なら何ら問題はない。しかし、私は世間一般でいう違法行為、あくまで金銭上での話であるが、それによって利益を上げ続け今に至る。税務署をうまいこと言いくるめて、脱税だってしている。  だが、ここ最近、マルサに目をつけられている。近い内、ガサ入れが行われるかもしれない。万が一に備え、脱税の証拠は隠しておいた。そして、幸か不幸か、男が横たわり死んでいたいた場所。その真下が、まさに私の脱税の証拠を納めた金庫が埋められている場所なのだ。
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