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警察が検分を行っている最中に隠し金庫でも見つかったらどうなるものか。間違いなく証拠品として押収され、中を調べられるだろう。そうなれば、私は終わりだ。不審死事件とは関係なく逮捕されてしまう。いや、脱税の容疑で逮捕されるのならまだしも、この男を殺した疑いすらかけられるかもしれない。脱税の証拠が見つかりそうになったらから、証拠を消すためにのか、いくらでも理由付けはできる。
早朝というのもあって、隣近所の人はまだ眠っているのは幸いだった。私は誰にも気付かれない内に死体を家まで運び入れ、ソファーに横たわらせた。そして、現在に至るのだ。
ウィスキーの酔いで現実を消し去ろうとしても消えることはない。それに、何度、ウィスキーを口にしても酔いなど感じられなかった。無関係だというのに、死体が目の前にあるだけで緊張して落ち着かない。
「どうしたらいい」
ウィスキーと飲んで少し、落ち着いた私は冷静になって現状を見極めることにした。
目の前にある男の死体。これを、どのようにして片づけるか。それが一番の課題であった。
古今東西、推理小説において、一番犯人を悩ませるのは死体をどのように処分するかだろう。死体を跡形もなく綺麗に溶かす薬品は普通は手に入らない、入手経路は確実に残ってしまう。第一、溶かす際の悪臭はどうしようもない。その臭いで誰かに気付かれてしまう。焼こうとしても、相当強い火力で焼かなくてはならない。火葬場を見ても分かるように、骨を残す為に火力を調節されているとはいえ、一時間ぐらいは燃やすのに時間を費やしているし、何の許可もなく火葬場で死体を燃やしてくれるはずもない。残忍なやり方では、刃物でバラバラの細切れにしてしまうという方法もあるが、私はそこまで残酷な性格ではないしやる気にもならない。無論、地面に埋めるやどこかの湖や海に捨てるなど論外である。その手のやり方ではいつか、見つかるのではと怯えて過ごさなくてはならなくなる。見ず知らずの男の為に、そんな惨めな一生を送るのは、嫌だった。
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