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「その経営者は続投している、ということですか」
「ああ、経営者とその従業員だな。ある程度の選別はしたが、大抵は残ってる。ここだけだったらいい場所だよ」
亮は視察も込めて、密かにこの施設を利用した。
その結果、従業員の多くは一流だということが分かったのだ。(中にはチップや、非合法に手を染めた者がいた)
「ここだけ見ればいい場所ですが、先ほどの領民街を見た後だと……」
「そういうことだ。表と裏のギャップがデカすぎて胸糞悪いことこの上ない」
片や超豪華宿泊施設、片やほぼスラム街。二面性が激しすぎるために、最低な場所となっていた。
「まあここに手を入れようと思ってるのは、利用料金の改正だ。価格を下げて、利用者の階層を広げる」
「なるほど、利用者数の底上げと、一般階層の取り込みを行うことで、領民街の活性化を手助けするということね」
「そういうことです。経営者の彼女は非常に物わかりの良い方ですから、すぐに了承いただけました。直に雰囲気も変わってくるでしょう」
となると、やはり最優先事項として、領民と領民街の改善が必要になるわけだ。
「はあ、なんでこんな面倒な役を引き受けちまったんだ……」
「後悔してるんですか?」
後悔していない、といえば嘘になるかもしれない。しかし、自分の居場所を、自分たちに手を差し伸べてくれた人たちを救わないという選択肢はなかった。だから、後悔はしているが、最善の手だったと思っている。
しかし、それとこれとは話が別だった。
「あの王女、意外と腹黒くてこま――」
「誰が腹黒いって?」
リサとレイラに挟まれる形で並んで立っていた亮は、口を最後の「ま」の形にしたまま、ゆっくりと後ろを振り返った。
そこには、最後にあった時と変わらぬ、傲岸不遜な立ち振る舞いの噂をすればあの人、が立っていた。
「で、殿下。お久しぶりでございます」
「久しいな、リョウ。それで、誰が腹黒いと?」
レイナールは現在王族らしい恰好をしている。
ゆえに、亮、リサ、レイラは膝をつき頭を垂れた。
そして、レイナールは亮のすぐ目の前で屈みこみ、亮の顔を覗き込むように見た。
「ん?」
「あ、いえその……」
「悲しいな、実に悲しい。あんなに一生懸命手を尽くしてやったというのに」
顔を手で隠し、泣いたふりを大げさに行うレイナール。
人通りはゼロではないため、非常にいたたまれない亮。
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