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「殿下、そろそろお許しを。兄がもう限界のようです」
慌てふためく亮に、救いの手を差し伸べたのはリサだった。
王女とリサはおそらく同い年(リサの正確な年齢が分からないため)であったため、すぐに意気投合。
親友と呼べる関係になっている。
「ふふ、そうだな。許してやろう」
「あ、ありがと――」
「ただし!一回命令を絶対遵守な」
「う……。かしこまりました、殿下」
ふふん、と胸を張る王女を見て、亮は多大なる不安を抱いた。
「ところで殿下、なぜこちらへ?」
あれから場所を屋敷に移し、現在亮の書斎。
「様子を見に来ただけだ。自分が任命した士族だからな」
「左様でございますか。しかし、領内の把握で手いっぱいで……」
「そうか……、まあ口ではそう言ってるが」
机の上に広げられた資料を手に取る。
資料を手で振りながら、亮を見る。
「これだけの段取り、手配、交渉その他もろもろ、手際よく進めているじゃないか。領民の一部からは、すでに支持を受けているようだしな」
「謙遜のつもりではありませんよ。他の領主のレベルが分からないだけです」
振られる資料を取り返し、机に戻した。
「それに殿下の方が手際が良いじゃないですか。もう領民から意見を集めている」
机の上の資料はもう不要だと考え、集めて揃え、リサに手渡した。
リサは資料を亮の執務用の机に置いた。
「ところで殿下は泊まっていかれるのですか?必要であれば用意しますが」
「うむ」
レイナールは顎に手を当て、考えるそぶりを見せる。
護衛の騎士を横目で見た。
騎士は、意図を感じとり一つ頷きを返した。
「じゃあ部屋を頼もう。着替えを持ってきていないから、そのあたりもよろしくな」
「かしこまりました。抜かりなくご用意します」
左胸に右手を当て、士族の礼を示す。
建前で行う者も多くいるが、この礼には意味がある。
心臓に手を当てることで、命をかける。そこから転じて、必ず遂行するという意味だ。
亮は士族だからこの礼をするのではなく、現代では形骸化しているが、意味通りに使用されていた時と同じように使用している。
普段の他の士族の礼には気分を悪くするレイナールも、気持ちのこもった亮の礼は気に入っていた。
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